この記事では、大島一太先生の本『これならわかる心電図の読み方』を参考にして進めていくよ。
目次


……大丈夫?
顔を上げると、知らない先輩が立っていた。
やさしい声と、まっすぐな視線。

困ってる顔してたからさ。……よかったら話さない?
私は逢坂フウ。この学校の2年生で、みんなからはエーエフって呼ばれてるんだ。

……1年の御堂ミトです。
実は……最初の授業のところで、全然わからなくて……

あー、それね。私も最初はさっぱりだったよ。
いきなりP波とか刺激伝導系とか言われても、意味わかんないよね。
よかったら、一緒に見ていこうか。
最初から順番にやれば、ちゃんとわかるようになるから。

……いいんですか。お願いしたいです。
P波・QRS波・T波の意味

じゃあまず、P波・QRS波・T波が、心臓のどんな動きを表してるかを見ていこう!
この波形を見てごらん。
一番最初にちょこんって出てる小さな山、これがP波。
心房がギュッと収縮するときに出る波なんだよ。

この小さな山が……心房がキュッと動いた合図なんですね!

そして、ドンッと大きく出てくるこの波。これがQRS波。
心室が力いっぱい収縮して、血液を全身に送り出す、とっても大事な波なんだよ。
参考書では『脱分極』って書いてあるけど、最初は何のこと?って感じだよね。


わかります! 私もさっき授業で聞いて、えっ?って固まっちゃいました……。
で、最後がT波。
ここはね、心室が“ふう……”ってひと休みして、次の動きに備えてるところなんだよ。
参考書だと『再分極』とか書いてあるけど、何それ?ってなるよねー。


たしかに……。『ふう……』の方がずっとわかりやすいです!

でしょ?
このP波、QRS波、T波。
この3つが、心電図を読むときのいちばん大事な基本なんだよ。
まずはここから。これがわかるだけでも、波形がぐっと見やすくなるから。

(……こんなふうに教えてもらえたら、私でもできるかもしれない)
【心電図の3つの基本の波形】
波の名前 | どんな動き? | ポイント |
---|---|---|
P波 | 心房が収縮して血液を心室へ送る | QRS波の前にある小さな山 |
QRS波 | 心室が強く収縮して血液を全身に送り出す | 一番大きな波 / 脱分極 |
T波 | 心室が休んで次に備える回復 | QRS波の後に出る波 / 再分極 |
P波とT波の見分け方

それとね、もうひとつ大事なことがあって。
P波とT波って、大きさも形も似てるから、心電図を見てると『あれ?どっちだっけ?』ってわからなくなること、よくあるんだよねー。

えっ、やっぱりそうなんですか? 授業中も見てて迷っちゃって……。

うん、最初はみんなそう。だから見分けるコツを覚えておくといいよ。
まずね、絶対に覚えておいてほしいことがひとつ!
T波はね、必ずQRS波のあとに出てくるんだよ。ここがポイント!


……ん? どうしてですか?

理由は簡単。心室が動いたあとには、必ず“回復”があるからなんだよ。
心室の動き(QRS波)と回復(T波)はセット。
順番が逆になることも、片方だけになることもないんだ。

じゃあ……QRS波を見つけたら、そのあとに出てくる山がT波ってことなんですね!

その通り!
だからまずQRS波を見つける → そのあとに出てる波はT波。
そして、QRS波の前にあって、どっちにも当てはまらない小さい波がP波なんだ。


なるほど……
じゃあP波って、“残った波”として見つければいいんですね。

うん、その通り。
この見分け方は心電図の基礎中の基礎だから、覚えておいて損はないよ。
P波とT波の見分け方
手順 | 内容 | ポイントメモ |
---|---|---|
① | まずQRS波を見つける | 一番大きなギザギザの波。最も目立つので見つけやすい! |
② | QRS波の直後の山をT波と判別する | T波はQRSのすぐあとに出る。順番は“QRS → T”と固定 |
③ | QRSでもT波でもない、小さな山を探す | 多くはQRSの前にある。これがP波! |
心房の休む波が見えない理由

そういえば……心室が休むときにT波が出るって教わったんですけど、心房は休まないんですか?

いいところに気づいたね! 実は心房もちゃんと休んでるんだよ。
でもね、心房が休むときの波はすごく小さくて、ちょうどQRS波の中に隠れちゃうの。
だから心電図にはハッキリ映らないんだ。

なるほど……心房もちゃんと休んでるんですね。見えないだけで。

そういうこと! だから波形に出てるのは心室の休憩(T波)だけって覚えれば大丈夫。

わかりました!
波の種類 | 休むときに出る波 | 表示されるかどうか |
---|---|---|
心室 | T波として出る | はっきり見える |
心房 | QRS波の中に隠れる | 波形としては見えない |

先輩の説明、本当にわかりやすいです。ありがとうございます。

そう言ってもらえると嬉しいな〜。……でもね、私も最初のころは“あいつ”に教えてもらってたんだよ。

えっ、エーエフ先輩にも教えてくれる人がいたんですね。

まあねー。私一人じゃここまで来れなかったな。
さて、続きをやりたいけど、もう結構遅くなっちゃった。
刺激伝導系の話はまた今度にしようか。明日も同じ時間なら教えられるけど、どうする?

お願いします! 明日も来ます。

うん、楽しみにしてる。……じゃあまた明日ね、ミトちゃん。

(先輩みたいに、私も誰かに教えられるくらいになりたいな……)
夕焼けの空は静かに暮れて、少しずつ夜の色に変わっていった。

次回予告

次回の心電図学園はね――
P波・QRS波・T波がわかったところで、
いよいよ次は刺激伝導系のお話だよ。
洞結節からはじまって、心房、房室結節、心室へ……
道すじを知ると、波形のひとつひとつがすごくわかりやすくなるんだ。
さあ、次は心臓の中で電気が旅する道すじを一緒に見ていこうね。

楽しみにしててね!
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こんにちは、どんどんだよ!
看護師歴は12年目。ふだんは循環器ナースとして働いてます。
この「心電図学園」はね、
心電図がちょっと苦手だなぁって思ってる人のために作った、やさしい物語形式の学習シリーズなんだ。
今回のテーマは、「P波・QRS波・T波の意味」。
一緒に、少しずつやっていこうね。